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成年後見事例研究

目次

相談事例

ドキュメンタリー

相談事例

お客様の相談事例をご紹介します。

事例1 自分の定期預金を解約できない!

 ご本人は、83歳の女性です。
5年前に夫を亡くし、その後は独居生活である。体は元気だが、時折、ひどいもの忘れが出るようになっていた。
子供は娘2人で、長女は商家に嫁ぎ、次女はサラリーマンと結婚して隣の市に住んでいる。
ご本人は有料老人ホームヘの入所を希望していたところ、空室が出たため入居することに決めた。
入居一時金を準備するため、銀行で自分の定期預金の解約手続きを行おうとしたところ、銀行の窓口で、住所・生年月日の確認を求められ、お金の使途についても尋ねられたが、そのときはきちんとした返事が出来なかった。
銀行は、「本人の意思確認ができないため、解約に応じられない。」と言い、有料老人ホームからは、「期日までに入居一時金の払い込みができない場合には、別の人に権利をまわす。」との通知を受けた。

解説

 「自分のお金なのに!」それを引き出せない。このようなことは現実に起こります。
金融機関にとって、預金を引き出そうとする人が「預金した本人であること」また、「本人にお金を引き出す意志と判断力がある」ことを確認するのは、金融機関の最も基本的な業務です。
預金の引き出しや解約は、預金者と銀行との間の契約に基づく取引であり、認知症などで判断力が低下した人のお金の引き出しを認めることは、銀行が「法律上の行為能力が無い人と商取引をした」ということになり、責任を問われかねません。
このような場合、銀行は自己防衛のために取引を停止することになります。

 このケースのように、ご本人の症状がまだ軽度で一時的なものである場合には、早めにご自身で後見人候補を決めて「任意後見契約」を結ぶことが望まれます。
任意後見契約」の締結が可能かどうかは公証人の判断によりますが、ご本人がこの契約の意味とその内容を理解する能力があれば、契約は可能です。
任意後見契約」を理解する力がないと判断された場合には、「法定後見制度」を利用し、判断力の程度により「補助」または「保佐」開始の申立てを行うことになります。

事例2 不動産の処分ができない!

 ご本人は、74歳の男性です。
自宅の他に2棟のアパートを所有し自ら管理していたが、アパートは老朽化が進み入居率がだんだん下がっていた。
近くに住む息子と相談して、1棟を売却し、その資金でもう1棟をマンションに建て替える計画を立てた。
その計画を実行に移そうとしていた矢先に、ご本人は脳梗塞で倒れ左半身の麻痺と思考能力低下の症状が出て、入院治療を続ける状態になった。
その後、老朽アパートでは入居者がさらに減り、残った入居者からは、雨漏りなどの苦情が出て来たため、息子は建て替え計画を急ぐことにし、近くの不動産業者に不動産売却を依頼しようとしたが、「父親名義のものを、本人の同意なしで売却など出来ない。」と断られてしまった。

解説

将来の生活設計が、突然の病気で壊れてしまう。こんな思いがけない災いが起こることもあります。アルツハイマー病などによる認知症の症状は、比較的緩やかに徐々に現れますが、脳梗塞などの場合は突然発症して、その後の回復には長い時間がかかります。ご本人がこのような状態になってからでは、任意後見の契約で息子が後見人となることはできません。

ご本人が既に正常な判断が出来ない状態にある場合は、家庭裁判所に「法定後見制度」による後見人の選任を求めることになります。息子が「後見人になりたい」と希望を述べることはできますが、後見人の選任は家庭裁判所の決定事項であり、NPO法人、司法書士、弁護士などの第三者が後見人に選任されることもあります。

後見開始」申立ての書類の準備から実際に後見人が選任されるまでには、2~3ヶ月程度の時間がかかることが予想され、その間はアパート建て替えの計画なども完全にストップせざるを得ません。建替え計画と同時に、ご本人と息子が話し合って、「任意後見契約」を結んでおけば、突然の病気は避けられないものの、ご本人の希望に沿った建て替え計画をスムースに進めることができたかもしれません。

事例3 遺産分割の協議は、私には無理!

 ご本人は61歳の男性です。
3年前から認知症の症状が出始め、アルツハイマー病と診断された。症状はだんだん悪化して、現在では奥さんの顔も識別できない。奥さんは夫の介護を続けているが、こちらも病気がちで通院を繰り返している。ご本人の父親が死亡して遺産分割の協議が必要となったが、奥さんは財産管理などに疎く、また精神的な余裕もなかった。
一人息子は転勤族で遠隔地におり、また奥さんには頼れる親族もいないため、遺産分割協議や財産管理を一人で行うことには自信が無く、強い不安を感じている。成年後見の話は一度聞いたことはあったが、具体的に手続きをどう進めたらいいもの全く分からない。

解説

 切羽詰まってからでは、ゆとりある生活設計はできません。奥さんも自分の病気のことで「成年後見制度」のことまで考える余裕がなかったのかもしれませんが、ご主人の病状を考えれば、もう少し早めに将来の準備をしておく必要があったようです。
ご本人の認知症状がひどくなってからでは、「法定後見制度」に頼る他はありません。市民後見センターなどに制度利用の手続等を相談し、また、遺産分割協議については弁護士、司法書士会、税理士などに連絡を取って、対応方法のアドバイスをもらうのが賢明です。
このようなケースでは、ご本人の身上監護などについては奥さんが、財産の管理については弁護士等が担当する形の共同後見が望ましいかもしれません。

 ドキュメンタリーのページにも、事例相談を載せています。併せてご覧下さい。

ドキュメンタリー

ここでは、相談事例より3つのケースを取り上げています。

事例1 担当先の財産侵害に、どう対処すればいいですか?

在宅介護サービス事業の担当職員です。担当先のおばあちゃん(81歳)が甥を名乗る人から財産を取られそうになっていることが明白なのですが、何の権限もない私個人としては、どうすることも出来ません。かといってこのまま、見てみぬフリも出来ず、悩んでいます。甥という人は2年前から本人の家に出入りをし始めたようで、最初は何も問題がなかったのですが、半年ほど前から本人に借金を依頼して、1,000万円のお金を引き出させ、その後も200万、100万と追加のお金を借り出しています。借金とはいっても、返せる当てがあるのかどうかまったくわかりません。借用書もなく口約束だけのことのようです。さすがに本人も、これ以上は甥にお金を渡したくないと言っていますので、何とかしてあげたいと思いますが、具体的にどうすればいいのか教えてください。

回答

おそらくは親戚ということで、お金の貸し借りについての書面も作らないまま、ずるずるとお金を渡し続けているのだと思われます。このような場合には、まずご本人の気持ちをしっかりと確認することが大切です。本当に被害を受けていると思っているのか、甥とほかに何か約束事があるのか、といったことです。本人が本当に被害と感じているようであれば、ご本人の助けとなる親族が他にいないかどうかを確認して、そういう人がいればその親族に連絡をして、任意後見制度の利用などを検討してもらうのが良いと思います。

よくあるケースとしては、甥という人が「将来の面倒を見るから」とか、「金も貸さないようなら、一切面倒は見ない」といったことを本人に言って、不安に陥れていることもありえます。ご本人の訴えをよく聞いて、状況によっては、きっぱりと縁を切る決断をしてもらうことが第一歩です。そこがふらふらしていては、相談のしようもありませんし、相談を受けた側でも処置の方針を立てることができません。あなたご自身も、そこまでの役割と割り切って、後は専門家に対処を任せるほうがよいと思います。
現在は、各市町村に「地域包括支援センター」が設置されていますので、その職員の方を窓口に、解決策を探るのも現実的な対応策となります。
地域のNPO等の団体でも、そのような対応ができる場合もあります。

財産侵害等についての法律相談は、各都道府県にある「日本司法支援センター(愛称:法テラス)」で相談にのってもらえます。経済的に余裕のない方が法的トラブルにあった時は民事法律扶助による無料法律相談を受けることもできます(ただし、利用には収入等の条件がありますので法テラスにお問い合わせください)。お近くの法テラスは「お近くの法テラス(地方事務所一覧)」から探すことができます。

事例2 親の財産が勝手に使われてしまいそうで、何とかしたいのですが?

両親は関西に住み、弟夫婦も近隣の県に住んでいますが、私はサラリーマンのため転勤を繰り返し、主に関東圏で暮らしてきました。おそらく定年になるまでこの状態が続くと思っていますが、年末に帰郷したとき、父親の様子がおかしく、単なる物忘れとは思えない言動を取ることがあるのに気が付きました。そのことで母と話をした際に、父が弟にかなりの額のお金を貸していることを初めて知りました。父は昔から弟には甘いところがありましたが、父と同じ分野の仕事で商売をしている弟からの資金援助を求められて、2~300万単位でずるずるとお金を渡してきたようで、全部で1,800万円にもなっていると聞いて仰天しました。父の認知症のことも心配ですが、それを利用して弟がさらに父からお金を引き出し、両親のこれからの生活のためのお金にも手を付けるのではないかと心配でなりません。何かこれを防ぐ方法はありませんか?私が父の後見人になればいいのでしょうか?

回答

お話の様子では、お父様は物忘れが少しひどくなってきているものの、正常な判断ができないほどのものとも思えません。この様な範囲内にある限り、お父様がご自身の判断で弟さんに資金援助をすることを止める方法はありません。また「家族はお互いに助け合うべきもの」という法律の考え方もありますので、お父様に資金援助を止めるよう説得するのは難しいと思います。まずは弟さんも交えて、ご両親の将来の生活について率直に話し合い、これから必要な生活資金の確保や住居、介護が必要になった場合の対応など、生活のプランを作ってゆくことが必要でしょう。そのプランの中に、任意後見契約の話を含めることとし、例えば長男であるあなたが任意後見人になる形での契約締結を提案されてはいかがでしょう。ただ、これからも遠隔地での生活が続く場合に「どのような形で後見人の仕事が出来るか」といった問題が生じますので、専門家の意見も入れて現実的な対応方法を決めておくことが肝要です。

事例3 物忘れのひどい母を守りたいのですが?

 父が亡くなってから、母の物忘れがひどくなってきました。父のお墓のことや財産相続のことなど、いまやっておかないといけないことがたくさんあります。母にその話をしたときは理解しているのですが、ひと月もたつとほとんど内容を忘れています。契約や税金のことなどをスムーズに行うためには、私(娘)が後見人になる手続きを取っておかなければならないように思いますが、どうでしょうか?

回答

「成年後見」は、物忘れの度合いということではなく、ご本人が物事の理解度や判断力が大きく低下したときに必要となるものです。現在、お母さんがお墓のことや相続のことを基本的に理解され、それをまたすぐに忘れるというのが、一般的な記憶力の低下の範囲なのか、認知症の症状が出ているのかを、まず、専門医(病院の「物忘れ外来」など)に相談され、診断を受けておかれた方が良いと思います。

その診断が、年齢による記憶力低下の範囲であれば、判断力についての支障はあまり考えられませんので、任意後見制度を利用して、あなた(娘)が成年後見受任者となる契約書を作成しておき、近い将来に、お母さんの判断力が低下したときに、あなたが後見人として仕事を開始できるよう準備をしておくのも、対策の一つです。

もしも、認知症の症状と判断されたのであれば、法定後見制度の中の「補助」「保佐」という判断力の低下が比較的軽度の状態での制度利用方法を家庭裁判所に申請し、あなたがお母さんの「補助人」「保佐人」となって、生活面での支援を始められることをお勧めします。

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